このドキュメントでは、音声伝送の制御に必要なシグナリング技術について説明します。このシグナリング テクニックは 3 つのカテゴリ(監視、アドレッシング、呼び出し)のいずれかに分類できます。監視には、ループまたはトランクのステータスの変化の検出が含まれます。この変化が検出されると、監視回路が所定の応答を生成します。たとえば、回路(ループ)を閉じてコールを接続できます。アドレッシングには、構内交換機(PBX)またはセントラル オフィス(CO)への着信番号(パルスまたはトーン)の転送が含まれます。 この着信番号は、別の電話機または顧客宅内機器(CPE)への接続パスをスイッチに提供します。 アラートは、着信コールや話中の電話など、特定の状態を示す可聴音をユーザに提供します。電話は、これらのシグナリング テクニックのどれが欠けても発信できません。このドキュメントでは、各カテゴリに含まれる特定のシグナリング タイプの説明の後に、コールの開始から終了までの基本的なコール進捗について調べます。
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
ループスタート シグナリングによる通話の進行状況は、オンフック、オフフック、ダイヤル、交換、呼び出し、会話の 5 段階に分割できます。図 1 にオンフック フェーズを示します。
図 1:
受話器がクレードルに置かれているときは、回路はオンフックです。つまり、通話が開始される前は、電話機が、発信者が受話器を取るのを待つ準備状態になっています。この状態は「オンフック」と呼ばれます。この状態のときは、電話機から CO 交換機への 48-VDC 回線は開かれた状態です。CO 交換機には、この DC 回線のための電源装置が取り付けられています。CO 交換機に電源装置があることで、電話機のある場所が停電になっても電話サービスは停止しません。電話機がこの位置にあるときは、呼び出し音だけがアクティブです。図 2 にオフフック フェーズを示します。
図 2
オフフック フェーズは、利用者が電話をかけようとして、クレードルから受話器を持ち上げると発生します。スイッチ フックによって CO 交換機と電話機との間のループが閉じられ、電流が流れます。この電流の流れが CO 交換機で検出され、ダイヤル トーン(連続して発信される 350 ヘルツ(Hz)と 440 Hz のトーン)が電話機に送信されます。このダイヤル トーンは、利用者がダイヤルを開始できるという合図です。利用者にすぐにダイヤル トーンが聞こえる保証はありません。すべての回線が使用されている場合は、利用者がダイヤル トーンを待機しなければならない可能性があります。使用する CO 交換機のアクセス容量によって、発信者の電話機へダイヤル トーンが送られるまでの時間の長さが決まります。CO 交換機がダイヤル トーンを生成するのは、交換機が着信者側のアドレスを保存するレジスタを予約した後だけです。このため、利用者はダイヤル トーンを受信するまではダイヤルできません。ダイヤル トーンが聞こえない場合は、レジスタが使用できないことを意味します。図 3 にダイヤル フェーズを示します。
図 3
ダイヤル フェーズでは、利用者が別の場所にある電話の電話番号(アドレス)を入力できます。利用者は、パルスを生成する回転式電話機、またはトーンを生成するタッチ トーン(押しボタン)式電話機で、この番号を入力します。これらの電話機は、異なる 2 種類のアドレス シグナリング(デュアルトーン多重周波数(DTMF)ダイヤルとパルス ダイヤル)を使用して、利用者の通話先を電話会社に通知します。
これらのパルスまたはトーンは、2 線式のツイストペア ケーブル(チップ回線とリング回線)を通って CO 交換機に送られます。 図 4 に交換フェーズを示します。
図 4
交換フェーズでは、CO 交換機が、パルスまたはトーンを、着信側の電話機に接続するポート アドレスに変換します。この接続は、要求された電話機に直接接続される(市内通話)か、別の 1 台以上の交換機を経由して最終的な宛先に接続されます(長距離通話)。図 5 に呼び出し フェーズを示します。
図 5:
CO 交換機が着信側の回線に接続されると、交換機により、20 Hz、90 V の信号がこの回線に送られます。この信号によって着信側の電話機が鳴ります。着信側の電話機の呼び出し中に、CO 交換機は、発信者に聞こえるリングバック トーンを送信します。このリングバック トーンで発信者は、着信側で呼び出し音が鳴っていることが分かります。CO 交換機は、発信側の電話機に 440 トーンおよび 480 トーンを送信してリングバックを生成します。これらのトーンが一定間隔で繰り返し再生されます。着信側が話中の場合、CO 交換機は発信者側に話中信号を送信します。話中信号は、480 Hz トーンと 620 Hz トーンで構成されています。図 6 に会話フェーズを示します。
図 6
会話フェーズでは、着信側が電話の呼び出し音を聞いて、応答します。着信側の利用者が受話器を持ち上げると、ただちにオフフック フェーズが今度は着信側で開始されます。ローカル ループが着信側で閉じられるため、CO 交換機へ電流が流れはじめます。この交換機が電流を検出すると、発信側の電話への音声接続が完了します。これで、発信側と着信側の間での音声による通信が開始されます。
表 1 に CO 交換機によってコール中に生成される通知トーンを要約します。
表 1
表 1 のプログレス トーンは、北米の電話システム用です。国際電話システムでは、一連のプログレス トーンがまったく異なる場合があります。すべての利用者が、これらのコール プログレス トーンのほとんどを知っている必要があります。
ダイヤル トーンは、電話会社が利用者の電話から番号を受信する準備が整っていることを示します。
話中トーンは、着信側の電話機がすでに使用中であるためにコールを完了できないことを示します。
リングバック(標準または PBX)トーンは、利用者に代わって電話会社がコールを完了しようとしたことを示します。
輻輳プログレス トーンは、スイッチ間で使用され、長距離電話ネットワークに輻輳が存在しているために通話が進行しないことを示します。
リオーダー トーンは、すべてのローカル電話回線が話中であるため、電話コールが処理されないことを示します。
受話器オフフック トーンは、電話の受話器が長時間にわたってオフフックになっていることを示す、大きな呼び出し音です。
該当番号なしトーンは、ダイヤルした番号を、交換機のルーティング テーブルで確認できないことを示します。
北米番号計画(NANP)では、電話番号の表現に 10 桁の数字を使用します。この 10 桁の数字は、エリア コード、局コード、端末コードの 3 つの部分に分かれます。
当初の NANP では、エリア コードは電話番号の最初の 3 桁であり、北米の各地域(カナダを含む)を表していました。 最初の数字は2 ~ 9の任意の数字、2番目の数字は1または0、3番目の数字は0 ~ 9の任意の数字です。オフィスのコードは、電話番号の2番目の3桁で構成され、電話網の交換機を一意に識別しました。1 桁目は 2 ~ 9 のいずれかの番号、2 桁目も 2 ~ 9 のいずれかの番号、そして 3 桁目は 0 ~ 9 のいずれかの番号でした。エリア コードと局コードの 2 桁目の番号は互いに重複しない数字を使用したため、以前はこの 2 つのコードが同一になることはありませんでした。この番号付けシステムでは、交換機が、エリア コードの 2 桁目の数字で、市内通話か長距離通話かを判別できました。端末コードは、電話番号の最後の 4 桁で構成されていました。この番号は、着信する電話が接続されている交換機のポートを一意に識別していました。この 10 桁の番号付けシステムに基づいて、1 つの局コードには 10,000 件までの異なる端末コードを保持できました。1 台の交換機で 10,000 件を超える接続を保持するには、さらに局コードを割り当てる必要があります。
家庭、インターネット アクセス、ファックス機などに取り付けられる電話回線の数が増えるにつれて、使用可能な電話番号の数が極端に減少しました。このため、NANP の変更が求められました。現在の計画では、電話番号のエリア コードと局コードのセクション以外は、基本的に古い計画と同じです。現在は、エリア コード用と局コード用の各 3 桁の数字が同じ方法で選択されます。最初の数字は2 ~ 9の任意の数字で、2番目と3番目の数字は0 ~ 9の任意の数字です。このシナリオでは、使用可能なエリアコードの数が大幅に増加し、割り当て可能なステーションコードの数が増加します。長距離通話の場合は、10 桁の番号をダイヤルする前に 1 をダイヤルする必要があります。
国際番号計画は、ITU-T 仕様 E.164 に基づき、すべての国が従わなければならない国際標準です。この計画には、どの国の電話番号も 15 桁を超えてはならないと明確に記されています。最初の 3 桁は国番号を表しますが、各国は、3 桁すべてを使用するかどうかを選択できます。残りの 12 桁は各国の固有の番号を表します。たとえば、北米の国番号は1です。したがって、別の国から北米に電話するときは、NANPにアクセスするために、最初に1をダイヤルする必要があります。次に、NANP が必要とする 10 桁の数字をダイヤルします。各国固有の 12 桁の番号は、その国で適切と思われる方法を自由に使って取り決めることができます。また、国によっては、国際電話の発信を意味する番号の組み合わせを使用しています。たとえば、米国内から国際電話を発信する場合は、011 が使用されます。図 7 に北米でのネットワーク アドレッシングを示します。
図 7
この図では、発信者が、発信者の施設内から電話をかけています。この施設では、PBX を使用して公衆電話交換網(PSTN)にアクセスしています。 発信者は、PBX を通過するために最初に 9 をダイヤルします(ほとんどの PBX はこのように設定されています)。 次に、発信者は、長距離通話であることを示す 1 と、通話する相手の 10 桁の電話番号をダイヤルする必要があります。このエリア コードに従って、発信者は 2 台の交換機を経由します。1 台目はローカル局の交換機で、2 台目は、長距離通話を行う中継キャリア(IXC)の交換機です。局コード(その次の 3 桁の数字)により、発信者は再びローカルの交換機を経由して相手の PBX に到達します。最後に、端末コード(最後の 4 桁の数字)によって、着信側の電話につながります。
パルス ダイヤルは、インバンド シグナリング技術です。この方法は、ダイヤルを備えたアナログ電話機で使用されます。回転ダイヤル式電話機の大きな数字ダイヤルは、回転して数字を送信し、電話をつなぎます。これらの数字は、特定の速度と、特定のレベルの許容範囲で送信される必要があります。各パルスは、ローカル ループ回線の開閉で発生する「Break」と「Make」で構成されます。Break 部分は、回線が開いている時間です。Make 部分は、回線が閉じている時間です。ダイヤルが回転するたびに、ダイヤルの底部によって CO 交換機または PBX 交換機につながる回線が開閉されます。
ダイヤル内の「調速機」で、数字のパルスの速度が制御されます。たとえば、利用者がだれかに電話をかけるために回転式ダイヤルの番号を回すと、スプリングが巻かれます。ダイヤルを放すと、スプリングによりダイヤルが回転して元の位置に戻り、カム駆動スイッチによって電話会社への接続が開閉されます。連続して開閉する(または切断して行う)の数は、ダイヤルされた数字を表します。したがって、数字3がダイヤルされると、スイッチは3回閉じて開かれます。図 8 は、パルス ダイヤルで数字 3 をダイヤルしたときに発生する一連のパルスを表します。
図 8
この図には、Break と Make という 2 つの用語が示されています。電話がオフフック状態になると Make になるため、発信者は CO 交換機からダイヤル トーンを受信します。そして、発信者が数字をダイヤルすると、Make と Break のシーケンスが 100 ミリ秒(ms)ごとに生成されます。 Break と Make のサイクルは、60% の Break に対して 40% の Make という比率に対応している必要があります。その後、電話機は、別の番号がダイヤルされるか、電話がオンフック(Break と同じ)状態に戻されるまで、Make 状態のままになります。ダイヤル パルスによるアドレス設定は、非常に低速なプロセスです。これは、ダイヤルされた数字と同じ数のパルスが発生するためです。たとえば、9 をダイヤルすると、Make と Break のパルスが 9 回発生します。0 をダイヤルすると、Make と Break のパルスが 10 回発生します。ダイヤル速度を上げるために、新しいダイヤル技術(DTMF)が開発されました。図 9 に DTMF ダイヤル(プッシュトーン ダイヤルとも呼ばれる)によって生成される周波数トーンを示します。
DTMF ダイヤルは、パルス ダイヤルと同様に、インバンド シグナリング技術です。この技術は、プッシュトーン ボタンが付いたアナログ電話機で使用されます。このダイヤリング技術では、図9に示すように、1桁あたり2つの周波数トーンのみを使用します。タッチトーンパッドまたはプッシュボタン電話のキーパッドの各ボタンは、高周波数と低周波数のセットに関連付けられています。キーパッドでは、キーの各行が低い周波数のトーンで識別され、各列が高い周波数のトーンに関連付けられています。両方のトーンの組み合わせで、ダイヤルされた番号が電話会社に通知されます。このため、デュアル トーン多重周波数という用語が使われます。したがって、0 をダイヤルすると、パルス式のダイヤルで 10 回発生する Make と Break のパルスの代わりに、941 と 1336 という周波数トーンだけが発生します。タイミングは、この場合も、発生する周波数ごとに、60 ミリ秒の Break と 40 ミリ秒の Make です。これらの周波数は、一般的な背景雑音から影響の受けにくいものが DTMF ダイヤル用として選択されました。
R1 および R2 の信号規格は、音声ネットワークの交換機の間で監視シグナリングやアドレス シグナリングの情報の送信に使用されます。これらの規格では、どちらも監視情報の送信に単一周波数信号を、アドレス情報の送信に多重周波数信号を使用します。
R2シグナリング仕様は、ITU-T勧告Q.400 ~ Q.490に含まれています。R2の物理接続レイヤは、通常、ITU-T標準G.704に準拠したE1(2.048 Mbps)インターフェイスです。 32のタイムスロットを備えています。E1 タイムスロットには TS0 ~ TS31 の番号が付けられており、そのうち TS1 ~ TS15 および TS17 ~ TS31 が音声または 64 Kbps データを伝送するために使用されます。音声の場合は、パルス符号変調(PCM)でエンコードされます。このインターフェイスでは、タイムスロット 0 をフレーム同期に使用し(一次群速度インターフェイス(PRI)と同じ)、タイムスロット 16 を ABCD シグナリングに使用します。これには 16 フレームのマルチフレーム構造があり、8 ビットのタイムスロット 1 つで 30 のデータ チャネルすべてに対する回線信号を処理できます。
2 種類の信号方式が使用されます。回線シグナリング(監視信号)とレジスタ間シグナリング(コール セットアップ制御信号)です。 回線シグナリングには、監視情報(オンフックとオフフック)が含まれ、レジスタ間シグナリングはアドレス設定を処理します。これらについては、このドキュメントで詳しく説明します。
R2 は個別線信号方式(CAS)を使用します。 これは、E1の場合、タイムスロット(チャネル)の1つがT1に使用されるシグナリングではなく、シグナリング専用であることを意味します。後者は6フレームごとに各タイムスロットの先頭ビットを使用します。
この信号方式は、アウトオブバンド シグナリングで、T1 Robbed ビット シグナリングと同じ方法で ABCD ビットを使用し、オンフック/オフフック状態を表します。これらの ABCD ビットは、各 16 フレームのタイムスロット 16 にあり、マルチフレームを形成します。これらの 4 ビットは、シグナリング チャネルと呼ばれることもあります。R2 シグナリングで実際に使用されるのは、そのうちの 2 つ(A と B)だけです。他の 2 つは予備用です。
これらの 2 ビットは、ウィンク スタートなどの Robbed ビット シグナリング タイプとは異なり、順方向と逆方向で異なる意味を持っています。しかし、基本的なシグナリング プロトコルに違いはありません。
回線シグナリングは、次のタイプで定義されます。
R2-Digital:R2回線シグナリングタイプITU-U Q.421。通常、PCMシステム(AビットとBビットが使用される)で使用されます。
R2-Analog:R2回線シグナリングタイプITU-U Q.411。通常はキャリアシステム(トーン/Aビットが使用される場合)に使用されます。
R2-Pulse:R2回線シグナリングタイプITU-U Supplement 7。通常、トーン/Aビットがパルス化されるサテライトリンクを使用するシステムで使用されます。
通話情報(着信者番号や発信者番号など)の転送は、通話に使用するタイムスロットでトーンにより実行されます(インバンド シグナリングと呼ばれる)。
R2 は、順方向に(コールの発信側から)6 つのシグナリング周波数を使用し、逆方向に(コールの着信側から)別の 6 つの周波数を使用します。 これらのレジスタ間信号は、6 つのうちの 2 つのインバンド コードを使用する多重周波数タイプです。R2 シグナリングのバリエーションで 6 つの周波数のうちの 5 つだけを使用するものは Decadic CAS システムと呼ばれます。
レジスタ間シグナリングは、通常、強制な手順によりエンドツーエンドで行われます。これは、一方向のトーンが他方向のトーンによって確認されることを意味します。このタイプのシグナリングは、Multifrequency Compelled(MFC)信号方式と呼ばれます。
レジスタ間シグナリングには、次の 3 つのタイプがあります。
R2-Compelled:トーンペアがスイッチから送信されると(順方向信号)、トーンをオフにするようにスイッチに信号を送るトーンペアでリモートエンドが応答(ACKを送信)するまで、トーンはオンのままになります。トーンは、オフにされるまで、オンの状態が強制的に維持されます。
R2-Non-Compelled:トーンペアがパルスとして送信(順方向信号)されるため、短時間オンのままになります。スイッチ(グループ B)への応答(後方向信号)は、パルスとして送信されます。この非強制的なレジスタ間シグナリングにはグループ A の信号はありません。
注:大半の環境では、非強制的なレジスタ間シグナリングが使用されます。
R2-Semi-Compelled:順方向トーンペアが強制的として送信されます。スイッチへの応答(後方向信号)は、パルスとして送信されます。このシナリオは、強制的なシグナリングと同じですが、逆方向信号が連続ではなくパルス化される点が異なります。
信号を使用できる機能は次のとおりです。
着信者または発信者番号
コール タイプ(中継、メンテナンスなど)
エコー抑制信号
発信者のカテゴリ
ステータス
R1シグナリングの仕様は、ITU-T勧告のQ.310 ~ Q.331に記載されています。このドキュメントでは、主なポイント(T1)の概要について説明します。R1の物理接続層は、通常、ITU-T標準G.704に準拠したT1(1.544 Mbps)インターフェイスです。この標準では、フレームの193番目のビットを同期およびフレーミングに使用します(T1と同じ)。
この場合も、2 種類の信号方式が使用されます。回線シグナリングとレジスタ シグナリングです。回線シグナリングには、監視情報(オンフックとオフフック)が含まれ、レジスタ シグナリングはアドレス設定を処理します。その両方について、より詳しく説明します。
R1 回線シグナリング
R1 では、6 フレームごとに各チャネルの 8 番目のビットをビット ロビングすることで、インスロットの CAS を使用します。この信号方式では、T1 Robbed ビット シグナリングと同じ方法で ABCD ビットを使用し、オンフック/オフフック状態を表します。
R1 レジスタ シグナリング
通話情報(着信者番号や発信者番号など)の転送は、通話に使用するタイムスロットでトーンにより実行されます。この信号方式は、インバンド シグナリングとも呼ばれます。
R1 では、700 Hz から 1700 Hz まで 200 Hz ごとの 6 つのシグナリング周波数を使用します。これらのレジスタ間信号は多重周波数タイプであり、6 つのうちの 2 つのインバンド コードを使用します。レジスタ シグナリングに含まれるアドレス情報は、KP トーン(パルス開始信号)の次から始まり、ST トーン(パルス終了信号)で終わります。
信号を使用できる機能は次のとおりです。
着信側の電話番号
コール ステータス
図 10 に単純な旧式の電話サービス(POTS)ネットワークにおけるチップ回線とリング回線を示します。
図 10
2 台の電話機の間での標準的な音声伝送には、チップ回線とリング回線が使用されます。チップ回線とリング回線はツイスト ペアのワイヤーで、RJ-11 コネクタで電話線に接続されます。スリーブは RJ-11 コネクタ用の接地リード線です。
ループスタート シグナリングは、音声ネットワークでオンフック状態とオフフック状態を示す監視シグナリング技術です。ループスタート シグナリングは、主に、電話機が交換機に接続されている場合に使用されます。このシグナリング技術は、次の接続にも使用できます。
電話機から CO 交換機
電話機から PBX 交換機
電話機から Foreign Exchange Station(FXS)モジュール(インターフェイス)
PBX 交換機から CO 交換機
PBX 交換機から FXS モジュール(インターフェイス)
PBX 交換機から Foreign Exchange Office(FXO)モジュール(インターフェイス)
FXS モジュールから FXO モジュール
図 11 ~図 13 に、電話機、PBX 交換機、または FXO モジュールから CO 交換機または FXS モジュールへ送られるループスタート シグナリングを示します。図 11 はループスタート シグナリングが発生する前のアイドル状態を示します。
図 11
このアイドル状態にある電話機、PBX、または FXO モジュールでは、2 線のループが開いた(チップ回線とリング回線が開いた)状態になります。 この場合、電話機で受話器がオンフックの状態であるか、PBX または FXO モジュールでチップ回線とリング回線の間が開いた状態であることが考えられます。CO または FXS は、電流が流れるクローズド ループを待機します。COまたはFXSには、チップ回線に接続されたリングジェネレータと、リング回線の–48 VDCがあります。図 12 に電話機でのオフフック状態と PBX または FXO モジュールでの回線捕捉を示します。
図 12
この図では、電話機、PBX、または FXO モジュールで、チップ回線とリング回線の間のループが閉じられています。つまり、電話機で受話器が取り上げられるか、PBX または FXO モジュールで回線接続が閉じられています。CO または FXS モジュールは電流を検出し、ダイヤル トーンを生成します。これが、電話機、PBX、または FXO モジュールに送信されます。これは、利用者がダイヤルを開始できることを示します。CO 交換機または FXS モジュールから着信コールがあった場合に発生する状態を図 13 に示します。
図 13
この図では、COまたはFXSモジュールは、20 Hz、90 VACの信号を–48 VDCのリング回線に重畳して呼び出される電話機、PBX、またはFXOモジュールのリング回線を捕捉しています。この手順により、着信側の電話機が鳴らされるか、着信コールがあることを示す信号が PBX または FXS モジュールに送られます。電話機、PBX、または FXO モジュールでチップ回線とリング回線の間の回路が閉じられると、CO または FXS モジュールではこの呼び出し音が止められます。着信側で受話器が取り上げられると、その電話機によってこの回線が閉じられます。PBX または FXS モジュールでは、着信側への接続に使用できるリソースがある場合に回路を閉じます。CO 交換機によって生成される 20Hz の呼び出し信号は、利用者側の回線の影響を受けません。また、これは着信コールがあることを利用者に知らせる唯一の方法です。利用者側の回線には、専用のリング ジェネレータはありません。したがって、CO 交換機は、鳴らす必要のある回線をすべて巡回する必要があります。この巡回には、4 秒ほどかかります。CO 交換機と、電話機、PBX、FXO モジュールが回線を同時に捕捉すると、この呼び出しの遅延により、グレアと呼ばれる問題が発生します。この問題が発生すると、通話を開始した利用者は、ほぼ瞬時にリングバック トーンなしで着信側に接続されます。電話機から CO 交換機への接続では、一時的にグレアが発生する程度であれば利用者によって許容されるため、大きな問題にはなりません。グレアは、PBX または FXO モジュールから CO 交換機または FXS モジュールに対してループスタートが使用されると、大きな問題になります。これは、より多くの通話のトラフィックが関係するためです。したがって、グレアが発生する可能性が増大します。このシナリオは、電話機から交換機へと接続される場合にループスタート シグナリングが主に使用される理由を説明しています。グレアの発生を防ぐための最善の方法は、グラウンドスタート シグナリングを使用することです。これについては後述します。
次の各図は、26/36/37xx プラットフォームに適用される FXS/FXO ループスタート シグナリングの ABCD ビットのビット状態を示します。
次の各図は、AS5xxx プラットフォームだけに適用される FXS/FXO ループスタート シグナリングの AB ビットのビット状態を示します。これは、26/36/37xx プラットフォームには適用されません。この動作モードは、通常、オフプレミス エクステンション(OPX)アプリケーションで使用されます。この方法には 2 つの状態信号方式があり、シグナリングとして「B ビット」を使用します。
アイドル状態:
FXS へ:A ビット = 0、B ビット = 1
FXS から:A ビット = 0、B ビット = 1
FXS 側発呼:
ステップ 1:FXS が A ビットを 1 に変更し、ループを閉じるように FXO に信号を送ります。
FXS へ:A ビット = 0、B ビット = 1
FXS から:A ビット = 1、B ビット = 1
FXO 側発呼:
ステップ 1:FXOはBビットを0に設定します。Bビットはリング生成と切り替わります。
FXS へ:A ビット = 0、B ビット = 1
FXS から:A ビット = 1、B ビット = 1
ループスタート トランクのシグナリング状態のテスト方法については、「分界点から見て CO 側」と「分界点から見て PBX 側」の 2 つの観点から説明します。
図14にアイドル状態を示します。ブリッジングクリップが取り外され、COがPBXから分離されます。
PBX 側を見ると、分界点で T と R のリード線が開いた状態にあることが分かります。
分界点からCO側を見ると、Tリード線上に接地が見られ、Rリード線上に–48Vが見られます。分界点のCO側のTとRの間に接続された電圧計は、理想的には–48V付近を示します。
図 14
CO 側で動作をテストするために、ブリッジング クリップを取り外し、CO 側の T-R リード線の間にテスト用電話機を接続します。このテスト用電話機により、ループが閉じられます。COはループのクロージャを検出し、ディジットレシーバを回線に接続し、音声パスを確立し、ダイヤルトーンをPBXに送信します(図15を参照)。
図 15
テスト用電話機がダイヤル トーンを受信すると、CO で許可されている DTMF またはダイヤル パルス シグナリングでダイヤルすることができます。CO には、ダイヤル パルス アドレスだけを受信する機能を備えているものもあります。DTMF を受信できる CO では、ダイヤルパルスも受信できます。最初にダイヤルされた数字を受信すると、CO はダイヤル トーンを削除します。
すべての数値がダイヤルされた後、CO でディジット レシーバが削除され、遠隔地の端末または交換機へと通話がルーティングされます。音声パスが発信装置を越えて延長され、コール プログレス トーンがテスト用電話機に返されます。通話が応答されると、音声が音声パスを通じて聞こえるようになります。
分界点のテスト用電話機は、着信通話操作のループスタート トランクのテストにも使用できます。テスト用の設定は、発信コールの場合と同様です。通常は、PBX 側の技術者が CO 側の技術者に他の回線を使って電話をかけ、テスト中のトランクを使って PBX 側に電話をかけるように CO 側の技術者に依頼します。CO 側ではそのトランクに呼び出し用の電圧が加えられます。正常であれば、分界点のテスト用電話機が鳴ります。PBX 側の技術者はそのテスト用電話機を使ってコールに応答します。テスト対象のトランクを使って双方の技術者が会話できれば、そのトランクは正常に動作しています。
ブリッジング クリップを取り外すと、PBX と分界点の間のテストは困難になります。ほとんどの PBX にあるループスタートのインターフェイス回線は、動作するために CO からのバッテリ電圧を必要とします。この電圧がないと、トランクを発信コール用として選択できなくなります。通常の手順としては、分界点から CO へのトランクのテストを、最初は、上記で説明したようにブリッジング クリップを取り外して行い、次に、ブリッジング クリップを取り付けた後に行います。PBX に接続しているときにトランクが正常に動作しない場合は、おそらく、PBX、または PBX と分界点の間の配線に問題があります。
グラウンドスタート シグナリングは、ループスタートと同様に、音声ネットワークでオンフック状態とオフフック状態を示すもう 1 つの監視シグナリング技術です。グラウンドスタート シグナリングは、主に、交換機間の接続で使用されます。グラウンドスタート シグナリングとループスタート シグナリングの大きな違いは、グラウンドスタートでは、チップ アンド リング ループが閉じられる前に接続の両端で接地の検出を行う必要があることです。
家で電話を使用するときはループスタート シグナリングが機能しますが、電話交換センターで大容量のトランクを使用している場合は、グラウンドスタート シグナリングの方が適しています。グラウンドスタート シグナリングでは、要求を使用し、インターフェイスの両端で交換を確認するため、使用率が高いトランクでは、FXO やその他のシグナリング方式より推奨されます。
図 16 ~図 19 に、グラウンドスタート シグナリングについて、CO 交換機または FXS モジュールから PBX または FXO モジュールへの動作のみを示します。図 16 にグラウンドスタート シグナリングのアイドル(オンフック)状態を示します。
図 16
この図では、チップ回線とリング回線の両方が接地から切り離されています。PBX と FXO は、接地用のチップ回線を常に監視し、CO と FXS は、接地用のリング回線を常に監視します。バッテリ(-48 VDC)は、ループスタートシグナリングと同様にリング回線に接続されたままです。図 17 に PBX または FXO から発せられたコールを示します。
図 17
この図では、PBX または FXO でリング回線が接地され、CO または FXS に対して着信コールがあることを示しています。CO または FXS では、リング回線の接地を検出し、チップ回線を接地して PBX または FXO に着信コールを受信する準備ができたことを通知します。応答として、PBX または FXO はチップ回線の接地を検出し、チップ回線とリング回線の間のループを閉じます。さらに、リング回線の接地を切り離します。このプロセスにより、CO または FXS への音声接続が完了し、音声による通信が開始されます。図 18 に CO または FXS からのコールを示します。
図 18
図 18 では、CO または FXS でチップ回線が接地され、20 Hz、90 VAC の呼び出し用電圧がリング回線に乗せられ、PBX または FXO へ着信コールが通知されます。図 19 にグラウンドスタート シグナリングの最終フェーズを示します。
図 19
この図では、PBX または FXO が、チップ回線の接地と呼び出し音の両方を検出しています。PBX または FXO に、通信を確立するために使用できるリソースがある場合、PBX または FXO ではチップ回線とリング回線の間のループが閉じられ、リング回線の接地が取り外されます。CO または FXS は、チップ アンド リング ループからの電流を検出し、呼び出し用トーンを削除します。PBX または FXO は、チップ回線の接地と呼び出し音を 100 ms 以内に検出する必要があります。検出できなかった場合はタイムアウトとなり、発信者は電話をかけ直さなければなりません。100 ms のタイムアウトにより、グレアの発生が抑えられます。
次の各図は、26/36/37xx プラットフォームに適用される FXS/FXO ループスタート シグナリングの ABCD ビットのビット状態を示します。
注:この図は、ルータのFXO側の図です。
注:切断監視はAビットで行われます。
次の各図は、AS5xxx プラットフォームだけに適用される FXS/FXO ループスタート シグナリングの AB ビットのビット状態を示します。これは、26/36/37xx プラットフォームには適用されません。この動作モードは、通常、外部交換(FX)トランクのアプリケーションで使用されます。
FXS 側発呼:
アイドル状態:
FXS へ:A ビット = 1、B ビット = 1
FXS から:A ビット = 0、B ビット = 1
ステップ 1:FXS が通話を発信します。FXS からの B ビットが 0 になります。
FXS へ:A ビット = 1、B ビット = 1
FXS から:A ビット = 0、B ビット = 0(FXS 側からの発呼)
ステップ 2:FXS からの A ビットが 0 になります。
FXS へ:A ビット = 0(FXO 側応答)、B ビット = 1
FXS から:A ビット = 0、B ビット = 0
ステップ 3:FXS が、A=1、B=1 を FXO に送信して応答します。
FXS へ:A ビット = 0、B ビット = 1
FXS から:A ビット = 1、B ビット = 1
FXO 側発呼:
ステップ 1:FXO は、A ビットと B ビットを 1 から 0 に変更します(B ビットは呼び出しサイクルに従う)。
FXS へ:A ビット = 0、B ビット = 0
FXS から:A ビット = 0、B ビット = 1
ステップ 2:応答として、FXS は、A ビットを 0 から 1 に変更します。応答として、FXO はリング ジェネレータを切り離します。リング ジェネレータが切り離されると、FXO は B ビットを 1 に戻します。
FXS へ:A ビット = 0、B ビット = 1
FXS から:A ビット = 1、B ビット = 1
グラウンドスタート トランクのテストは、ループスタート トランクのテストと同様です。ただし、PBX と分界点の間の一部のテストは、通常、ブリッジング クリップを取り外した状態でも実行できます。
図20にアイドル状態を示します。ブリッジングクリップが取り外され、PBXがCOから分離されます。PBX側を見ると、Tリード線に–48VとRリード線が開いています。CO側を見ると、Rリード線に–48VとTリード線が開いています。
図 20
分界点のCO側でRから接地に接続された電圧計、またはPBX側でTから接地に接続された電圧計は、約–48Vを読み取るのが理想的です。CO 側で T リード線と接地との間に接続された抵抗計は、非常に高い抵抗値を示します。PBX の多くでは、アイドル状態で R リード線と設置の間にいくらかの電圧が認められます。抵抗値の測定方法が不完全だと、誤った計測値となったり、メータが損傷したりする場合があります。分界点の PBX 側での R リード線と接地の間の抵抗を計測する際は、あらかじめ PBX の製造元の技術マニュアルを参照してください。
発信コールのグラウンドスタート トランクをテストするには、ブリッジング クリップを取り外し、テスト用電話機と電圧計を接続します。そして、次の手順に進みます。
電圧計を観察します。テスト用電話機がオンフック状態の場合、正常であれば、電圧計が約 0.0 V を示します。
オフフックにして、音を聞きます。正常であれば、ダイヤル トーンが聞こえません。
メータを観察します。理想的には、-48 V付近を読み取ります。
ジャンパ線を使って瞬間的に R リード線を接地し、再度ダイヤル トーンを聞きます。正常であれば、接地が取り外された直後にダイヤル トーンが聞こえます。
電圧計を観察します。前によりもずっと低い値が示されます。これは、CO が T リード線の接地を送信していることを示しています。
ステーションまたはミリワット テスト用端末の番号にダイヤルします。コールが確立すると、音声が聞こえるようになります。
グラウンドスタート トランクは、テスト用の電話機を使用して、ループスタート トランクとまったく同じ手順で着信コールについてテストできます。
ループスタート トランクとグラウンド スタート トランクでは、動作の信頼性を保つために、ループが閉じられたときに少なくとも 23 ミリアンペア(mA)の直流電流が流れている必要があります。23 mA 未満の場合、断続的なドロップアウトが発生したり、捕捉ができないなどの誤動作が発生します。ループ電流が 23mA ぎりぎりの場合は、テスト用の電話機でのテストが成功していても、PBX に接続すると誤動作が発生する場合があります。トランクで誤動作が発生した場合は、ループ電流を回線テスト セットで計測する必要があります。
図 22 にテスト用の設定を示します。ブリッジング クリップを取り外し、分界点の CO 側で緑色のテスト用リード線を T リード線に、赤色のテスト用リード線を R リード線に接続します。このテストでは、黄色のリード線は使用しません。
図 22
ループ電流を測定するには、テスト用電話機をオフフックにし、ダイヤル トーンを聞きます。グラウンドスタート トランクをテストする場合は、少しの間、R リード線を接地します。ダイヤル トーンが聞こえたら、テスト セットの計測ボタンを押して、mA の目盛りでループ電流を読み取ります。正常であれば、23 mA と 100 mA の間を示します。
図 23 にアイドル状態を示します。PBX 側を見ると、T リード線が接地され、R リード線にはバッテリが繋がれていることが分かります。CO 側を見ると、T リード線と R リード線の間に高い抵抗値を持つループがあることが分かります。
図 23
コールに応答があったとき、PBX では T リード線にバッテリをつなぎ、R リード線を接地します。この状態は、T-R 反転と呼ばれます。この電圧の反転は、電圧計で観察できます。T リード線と R リード線との間でバッテリと接地が反転するため、このタイプの信号はループ反転バッテリと呼ばれます。
CO が最初に接続を解除すると、わずかな電圧の上昇が観察され、同時に CO 交換機内のループが低い抵抗値から高い抵抗値に変化します。PBX がオンフックになったとき、このプロセスに続いて電圧の反転が発生します。
PBX が最初に接続を解除した場合は、電圧の反転が生じ、続いて CO がオンフックになったときに電圧が上昇し、CO のループが低い抵抗値から高い抵抗値に変化します。
テスト コールを複数回、行います。各テスト コール後に、ブリッジング クリップと、テストした回線を取り外し、回線がアイドル状態に戻っていることを確認してください。
PBX の多くは、分界点からブリッジング クリップをはずしてダイヤルイン方式(DID)の動作をテストすることができます。次のステップを実行します。
テスト用電話機をオフフックにします。
PBX 内線番号の 1 ~ 4 桁のアドレスをダイヤルします。
呼び出された内線番号が鳴ったら、手順 4 に進みます。
テスト用の電話機と、呼び出された内線との間で会話ができるかどうかを試します。音声の伝送状態が良好な場合は、分界点までは PBX とトランクが正常に動作しています。
手順 3 または 4 で問題が発生した場合は、DID の動作に問題があり、修正する必要があります。
主にPBXまたは他のネットワーク間テレフォニースイッチ(Lucent 5 Electronic Switching System(5ESS)、Nortel DMS-100など)間で使用されるもう1つのシグナリング技術は、E&Mと呼ばれます。E&Mシグナリングは、音声スイッチ間のタイラインタイプのファシリティまたは信号をサポートします。E&M では、同じ回線で音声と信号を重ねるのではなく、それぞれに別のパス(リード線)を使用します。E&M は、一般に、耳と口(Ear & Mouth)または受信と送信(recEive & transMit)を指します。E&M シグナリングには、5 つのタイプと、2 種類の配線方式があります(2 線式と 4 線式)。 表 1 を見ると、E&M シグナリングのいくつかのタイプが似ていることが分かります。
Type | M リード線オフフック | M リード線オンフック | E リード線オフフック | E リード線オンフック |
---|---|---|---|---|
I | バッテリ | グラウンド | グラウンド | 開く |
II | バッテリ | 開く | グラウンド | 開く |
III | ループ電流 | グラウンド | グラウンド | 開く |
IV | グラウンド | 開く | グラウンド | 開く |
V | グラウンド | 開く | グラウンド | 開く |
SSDC5 | アース オン | アース オフ | アース オン | アース オフ |
4 線式 E&M タイプ I シグナリングは、実際には、北米で一般的な 6 線式 E&M シグナリング インターフェイスです。1 本の回線は E リード線で、2 番目の回線は M リード線です。そして、残りの 2 つのペアの回線は、音声パスとして機能します。この配置では、M リード線と E リード線の両方に対して、PBX が電源(バッテリ)を供給します。
タイプ II、III、および IV は、8 線式インターフェイスです。1 本の回線は E リード線で、もう 1 本の回線は M リード線です。他の 2 本の回線は信号接地(SG)と信号バッテリ(SB)です。 タイプ II では、SG と SB がそれぞれ、E リード線と M リード線のリターン パスです。
タイプ V は、別の 6 線式 E&M シグナリング タイプで、北米以外で使用される最も一般的な E&M シグナリング形式です。タイプ V では、1 本の回線が E リード線で、もう 1 本の回線は M リード線です。
SSDC5A はタイプ V と似ていますが、フェールセーフ動作を備えているために、オンフックとオフフックの状態が逆である点が異なります。つまり、回線が途切れた場合、インターフェイスはデフォルトであるオフフック(話中)状態になります。 すべてのタイプの中で、タイプ II とタイプ V だけが対称(クロスケーブルを使用してバックツーバックの接続が可能)です。SSDC5 は、イギリスで最も一般的に使用されています。Cisco 2600/3600 シリーズでは、現在はタイプ I、II、III、および V を、2 線式と 4 線式の両方でサポートします。次の図は、2 線式および 4 線式の E&M シグナリング接続を示します。音声は、チップ回線とリング回線を使って送信されます。信号は E 回線と M 回線を使って送信されます。
次の図は、回線が 2 線式のタイプ 1 E&M シグナリングを示します。
次の図は、ウィンク スタート シグナリング中に行われるプロセスを示します。
次の図は、イミディエート ウィンク スタート シグナリング プロセスを示します。
デジタル E&M シグナリングは、2 つの状態(オンフックとオフフック)を表すシグナリング方式で、デジタルの 4 線式 CO およびタイ トランクで一般的に使用されます。「A ビット」信号では、信号の状態を送信します。「B ビット」(拡張スーパーフレーム(ESF)の場合は B、C、D ビット)は、A ビットと同じ状態を示します。
アイドル状態
PBX B へ:A ビット = 0、B ビット = 0
PBX B から:A ビット = 0、B ビット = 0
PBX A がオフフックになる
PBX B へ:A ビット = 1、B ビット = 1
PBX B から:A ビット = 0、B ビット = 0
PBX B が応答
PBX B へ:A ビット = 1、B ビット = 1
PBX B から:A ビット = 1、B ビット = 1
注:発信側スイッチは、アプリケーションによっては、コールの開始後に遠端からダイヤルトーンまたはウィンクを受信できます。
タイ トランクの両端にある PBX は同じプライベート ネットワークの一部であるため、プライベート ネットワークの技術者は、公衆ネットワークのリース設備が伝送パスに含まれていても、トランクでエンドツーエンドのテストを実行できます。トランクの両端の技術者が協力して作業し、互いの設備を介して会話することによって、その活動を調整します。次のテスト手順は、E&M シグナリングのタイプ I および II だけのテストについての説明です。
タイプ I E&M シグナリングをテストするために、E リード線と M リード線の両端からブリッジング クリップを取り外します。E リード線と接地との間に抵抗計を接続します。トランクの一方の端のMリード線が–48Vにジャンパされている場合、理想的には他方の端の抵抗計の測定値がオープンから非常に低い抵抗に変わります。これは E リード線が接地されていることを示します(図 27 を参照)。
図 27
図 28 にタイプ II 用のテスト設定を示します。ブリッジ用クリップは M リード線と signal battery(SB; 信号バッテリ)リード線だけから取りはずします。E リード線と信号接地(SG)の間に電圧計を接続します。 理想的には、アイドル状態では、電圧計はPBXからのバッテリ電圧(約–48V)を読み取ります。トランクの片方の側で M リード線と SB リード線の間がジャンパ線で接続されると、遠端側の電圧計は低い値に下がり、E リード線が接地されていることが示されます。
図 28
共通線信号(CCS)システムは、通常、ハイレベル データリンク コントロール(HDLC)をベースとするメッセージ指向の信号システムです。米国の PSTN では、CCS の初期の実装は 1976 年に始まり、共通線局間信号(CCIS)と呼ばれていました。 この信号方式は、ITU-T の Signaling System 6(SS6)に似ています。 CCIS プロトコルは、比較的低いビット レート(2.4K、4.8K、9.6K)で動作していましたが、わずか 28 ビットの長さのメッセージを伝送しました。しかし、CCIS では、音声とデータの統合環境を十分にサポートできませんでした。そのため、HDLC ベースの信号規格と ITU-T 勧告が新たに策定されました。それが、Signaling System 7 です。
最初の定義は ITU-T によって 1980 年に行われました。1983 年にスウェーデンの電気通信省庁(PTT)が SS7 の試行を開始し、今ではヨーロッパの数 ヵ国が完全な SS7 ベースの運用を行っています。
米国国内での早期の実装例としては、最初の電話運営会社(BOC)の中で Bell Atlantic が1988 年に SS7 の実装を開始しました。
現在では、ほとんどの長距離電話網や地域の電話会社の電話網で ITU-T の Signaling System 7(SS7)を実装するようになりました。 1989 年までに AT&T は、そのデジタル ネットワーク全体を SS7 に変換しました。US Sprint も SS7 ベースとなりました。しかし、多数の地域電話会社(LEC)では、まだ、そのネットワークを SS7 にアップグレード中です。これは、SS7 をサポートするためにアップグレードが必要な交換機の数が、IC に比べて非常に多いためです。LEC での SS7 導入の遅れは、米国内での ISDN の導入の遅れの一因ともなっています。
現時点で、SS7 プロトコルには次の 3 つのバージョンがあります。
ITU-T バージョン(1980、1984)、ITU-T Q.701 ~ Q.741 に記載
ATT および Telecom Canada(1985)
ANSI(1986)
現在、SS7 では、電話ユーザ部(TUP)を使用して POTS をサポートします。TUP は、このサービスをサポートするために使用されるメッセージを定義します。補足された ISDN ユーザ部(ISUP)は、ISDN 伝送をサポートするように定義されています。ISUP に POTS から ISDN への変換が組み込まれるため、徐々に ISUP が TUP に置き換わることが期待されます。図 29 に SS7 が音声ネットワークを制御する様子を示します。