相互運用性を促進するため、Frame Relay Forum(FRF; フレームリレー フォーラム)ではフレームリレー ネットワークの実装に関する協定や規格を発行しています。FRF.8 はフレームリレーと ATM サービスのインターワーキングを規定しているものです。Cisco のネットワーク トポロジでは次の 3 つのコンポーネントを使用しています。
フレームリレーのカプセル化用に設定されたシリアル インターフェイス装備のルータ エンドポイント
ATM エンドポイント
2 つのエンドポイント間の通信を可能にするための Interworking function(IWF; インターワーキング機能)を実装した、ネットワーク スイッチまたは Cisco ルータ
FRF.8 実装協定の Section 5 では、上位層プロトコル カプセル化について 2 つのモードを規定しています。このカプセル化ではヘッダーが参照されます。ヘッダーには、Protocol Data Unit(PDU; プロトコル データ ユニット)で搬送されるプロトコルを特定する情報が含まれているため、受信側は着信パケットを正しく処理できます。FRF.8 では、変換モードと透過モードという 2 つのモードが定義されています。インターワーキング機能でどちらのモードを選択するかによって、ATM エンドポイントに設定するカプセル化方式が決まります。
このドキュメントでは透過モードと変換モードのパケットレベルでの違いを説明します。FRF.8 実装でエンドツーエンドの接続性問題をトラブルシューティングする際の参考情報としてください。
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、「シスコ テクニカル ティップスの表記法」を参照してください。
フレームリレーと ATM は、ネットワーキング インターフェイスのためのレイヤ 2 プロトコルです。どちらのプロトコルも、レイヤ 2 で 2 つの異なるヘッダーを使用します。
上位層プロトコルカプセル化ヘッダー:フレームまたはセルでカプセル化および転送されるプロトコルを通信します。Request for Comments(RFC)1490 および FRF 3.2 で定義され、ATM については RFC 1483 および 2684 で定義されています。
アドレスヘッダー:レイヤ2アドレス(Data-Link Connection Identifier(DLCI;データリンク接続識別子)またはVirtual Path Identifier/Virtual Channel Identifier(VPI/VCI;仮想パス識別子/仮想チャネル識別子))に加え、廃棄優先および輻輳表示の値も通信します。フレームリレーでは Q.922(通常は 2 バイト)により定義され、ATM では 5 バイトのセル ヘッダーにより定義されます。
注:FRF.8変換モードと透過モードは、カプセル化ヘッダーに関係します。
次のダイアグラムは、Q.922 アドレス ヘッダーと、上位層プロトコル カプセル化ヘッダーの制御(Control)フィールドおよび Network Layer Protocol Identification(NLPID)フィールドを持つ、フレームリレー パケットの例です。
FRF.8 のモードを確認する debug コマンドについて説明する前に、フレームリレーのカプセル化について説明します。Cisco ルータのインターフェイスでは、Cisco のカプセル化と Internet Engineering Task Force(IETF; インターネット技術特別調査委員会)のカプセル化の 2 種類のプロトコル カプセル化がサポートされています。IETF のカプセル化は encapsulation frame-relay [ietf] コマンドで選択できます。IETF フォーマットと 1 つの Cisco フォーマットがあります。これらについて詳しく説明します。
RFC 1490 および 2427 ではフレームリレーの IETF カプセル化が定義されています。これらの RFC では NLPID 値の使用法が規定されています。ISO/International Electrotechnical Commission(IEC; 国際電気標準会議)の TR 9577 ドキュメントでは、次のプロトコルの NLPID 値が定義されています。
値 | 説明 |
---|---|
0x00 | Null のネットワーク レイヤまたは非アクティブのセット(フレームリレーでは使用しせず) |
0x80 | Subnetwork Access Protocol(SNAP; サブネットワーク アクセス プロトコル) |
0x81 | ISO CLNP |
0x82 | ISO End System-to-Intermediate System(ES-IS) |
0x83 | ISO Intermediate System-to-Intermediate System(IS-IS) |
0xCC | インターネット IP |
NLPID 値が定義されているプロトコルでは次のような短い形式のヘッダーが使用されます。
NLPID 値が定義されていないプロトコルでは SNAP ヘッダーが使用されます。次のように、NLPID 値に 0x80 が指定されるため、SNAP ヘッダーが使用されていることがわかります。
ルータでは次の規則に従って、どちらの IETF 形式を使用するかが自動的に判断されます。そのプロトコルの NLPID 値がある場合は、短い形式が使用されます。NLPID 値がない場合は、長い形式が使用されます。
Cisco のカプセル化では、レイヤ 3 プロトコルを特定する EtherType 値を含む 2 バイトの制御フィールドを使用します。Cisco の IP カプセル化では、2 バイトの EtherType 値 0x0800 の後に IP データグラムが続きます。
FRF.8 実装協定では、変換モードと透過モードは次のように説明されています。
トランスペアレントモード(モード1):カプセル化方式がモード2で説明されている規格に準拠していないが、端末装置間で互換性がある場合、インターワーキング機能(IWF)はカプセル化を変更せずに転送します。マッピング、フラグメンテーション、再構成などは行われません。
変換モード(モード2):フレームリレーPVCおよびATM PVC上で複数の上位層ユーザプロトコル(LANからLANなど)を伝送するためのカプセル化方式は、それぞれ標準のFRF 3.2およびRFC 2684に準拠しています。IWF がこれらの 2 つのカプセル化をマッピングします。変換モードでは、インターネットワーキング(ルーテッドかブリッジド、またはその両方)プロトコルのインターワーキングがサポートされています。
次に、Cisco IOS®ソフトウェアのshowコマンドとdebugコマンドを発行して、これらのモードをCiscoルータのFRF.8の実際の実装にどのように適用するかを理解します。
このセクションでは、次のネットワーク設定を使用します。
このセクションでは、次の設定例を使用しています。
3620-1 |
---|
interface Serial1/0 ip address 10.10.10.1 255.255.255.0 encapsulation frame-relay IETF frame-relay map ip 10.10.10.2 25 frame-relay interface-dlci 25 frame-relay lmi-type ansi |
7206B |
---|
frame-relay switching ! interface Serial4/3 no ip address encapsulation frame-relay IETF frame-relay interface-dlci 50 switched frame-relay lmi-type ansi frame-relay intf-type dce ! interface ATM5/0 no ip address atm clock INTERNAL no atm ilmi-keepalive pvc 5/50 vbr-nrt 100 75 oam-pvc manage encapsulation aal5mux fr-atm-srv ! connect SIVA Serial4/3 50 ATM5/0 5/50 service-interworking |
7500-A |
---|
interface atm 4/0/0.50 multi ip address 10.10.10.2 255.255.255.0 pvc 5/50 vbr-nrt 100 75 30 protocol ip 10.10.10.1 |
注:2つのモードを示すと、ATMエンドポイントでencapsulation aal5nlpidコマンドを発行し、IWFルータでサービス変換を行わないことで、設定を変更することができます。
インターワーキング デバイスは割り込みモードで機能するため、debug atm packet の出力を取得することはできません。このデバッグはプロセスレベルのパケットにしか機能しないからです。パケット フォーマットを取得するには、2 つのエンドポイントで debug コマンドを実行する必要があります。
注:debugコマンドを発行する前に、『debugコマンドの重要な情報』を参照してください。
debug frame-relay packet int serial 1/0:フレームリレーエンドポイントでパケットレベルのデコードをキャプチャします。
debug atm packet int atm 4/0/0.50:ATMエンドポイントでパケットレベルのデコードをキャプチャします。
debug atm error:カプセル化エラーまたは不一致をキャプチャします。
connect コマンドを使用して ATM PVC とフレームリレー PVC をリンクさせると、IWF ルータは自動的に変換モードになります。これを確認するには show connect name コマンドを使用します。
次のように設定すると、フレームリレー エンドポイントから ATM エンドポイントに PING を送出できます。
フレームリレーのエンドポイントに IETF カプセル化を設定する。
IWF ルータを変換モードに設定する。
ATM エンドポイントに AAL5SNAP カプセル化を設定する。
3620-1.9# ping 10.10.10.2 Type escape sequence to abort. Sending 5, 100-byte ICMP Echos to 10.10.10.2, timeout is 2 seconds: !!!!! Success rate is 100 percent (5/5), round-trip min/avg/max = 36/36/40 ms
PING が成功しました。各エンドポイントでパケット ヘッダーを詳しく見てみます。
フレームリレーのエンドポイントでの debug frame-relay packet の実行
3620-1.9# *Apr 4 11:13:20.978: Serial1/0(o): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104 *Apr 4 11:13:21.014: Serial1/0(i): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104 *Apr 4 11:13:21.014: Serial1/0(o): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104 *Apr 4 11:13:21.050: Serial1/0(i): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104 *Apr 4 11:13:21.050: Serial1/0(o): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104 *Apr 4 11:13:21.086: Serial1/0(i): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104 *Apr 4 11:13:21.090: Serial1/0(o): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104 *Apr 4 11:13:21.122: Serial1/0(i): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104 *Apr 4 11:13:21.126: Serial1/0(o): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104 *Apr 4 11:13:21.162: Serial1/0(i): dlci 50(0xC21), NLPID 0x3CC(IP), datagramsize 104
前述の IETF カプセル化の説明のとおり、IP プロトコルに 0xCC の NLPID 値が割り当てられているため、PING パケットで短い形式のカプセル化ヘッダーが使用されていることがわかります。
ATM エンドポイントでの debug atm packet の実行
7500-1.5# 1w3d: ATM4/0/0.50(I): VCD:0xD VPI:0x5 VCI:0x32 Type:0x0 SAP:AAAA CTL:03 OUI:000000 TYPE:0800 Length:0x70 1w3d: 4500 0064 004B 0000 FE01 9437 0A0A 0A01 0A0A 0A02 0800 0C14 08FE 246F 0000 1w3d: 0000 B1E8 92E0 ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: 1w3d: ATM4/0/0.50(O): VCD:0xD VPI:0x5 VCI:0x32 DM:0x0 SAP:AAAA CTL:03 OUI:000000 TYPE:0800 Length:0x70 1w3d: 4500 0064 004B 0000 FF01 9337 0A0A 0A02 0A0A 0A01 0000 1414 08FE 246F 0000 1w3d: 0000 B1E8 92E0 ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD
ルーテッド Protocol Data Unit(PDU; プロトコル データ ユニット)について、AAL5SNAP カプセル化では 0x000000 の OUI 値、および、タイプ フィールドに Ethertype 値(たとえば IP の場合 0x0800)が使用されています。詳細については、『LLC カプセル化を使用した ATM PVC における多数のルーテッド プロトコル』を参照してください。
このデバッグでは、IWF がフレームリレー NLPID ヘッダーと AAL5SNAP ATM ヘッダー間の変換をどのように行っているのかがわかります。
透過モードを確認するため、IWF ルータのモードだけを変更します。no service translation コマンドを発行して、明示的に透過モードを設定します。
7200-2.4(config)# connect SIVA 7200-2.4(config-frf8)# no service translation
show connect name コマンドを発行して、変更されていることを確認します。
7200-2.4# show connect name SIVA FR/ATM Service Interworking Connection: SIVA Status - UP Segment 1 - Serial4/3 DLCI 50 Segment 2 - ATM5/0 VPI 5 VCI 50 Interworking Parameters - no service translation efci-bit 0 de-bit map-clp clp-bit map-de
2 台のルータ間の PING が失敗しています。debug atm packet および debug atm error コマンドを使用して、PING が失敗した理由を確認します。元の NLPID ヘッダーが IWF 経由で運ばれ ATM エンドポイントに到達しましたが、ATM エンドポイントが AAL5SNAP に設定されているため、NLPID 値が認識されませんでした。
7500-1.5# 1w3d: ATM4/0/0.50(I): VCD:0xD VPI:0x5 VCI:0x32 Type:0x0 SAP:03CC CTL:45 Length:0x6A 1w3d: 0000 6400 4A00 00FF 0193 380A 0A0A 010A 0A0A 0208 0058 3603 6F10 EA00 0000 1w3d: 00B1 8E60 2CAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB 1w3d: CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB CDAB 1w3d: CDAB CDAB CDAB CDAB CD43 1w3d: 1w3d: ATM(ATM4/0/0.50): VC(13) Bad SAP received 03CC
AAL5SNAP カプセル化の場合 ATM インターフェイスでは、SNAP ヘッダーが続くことを示す AA という値の Destination Service-Access-Point(DSAP; 宛先サービス アクセス ポイント)と Source Service Access Point(SSAP; 送信元サービス アクセス ポイント)が探索されます。ここでは同じバイト位置で、元のフレームリレー ヘッダーの control (0x03) と NLPID(IP の場合 0xCC)の値を受信しています。
このエラー状態は ATM のカプセル化を AAL5NLPID に変更することで修正できます。今度は両方のエンドポイントで同じカプセル化が使用されるので、PING が成功します。
7500-1.5(config)# interface atm 4/0/0.50 7500-1.5(config-subif)# pvc 5/50 7500-1.5(config-if-atm-vc)# encapsulation ? aal5ciscoppp Cisco PPP over AAL5 Encapsulation aal5mux AAL5+MUX Encapsulation aal5nlpid AAL5+NLPID Encapsulation aal5snap AAL5+LLC/SNAP Encapsulation 1w3d: %SYS-5-CONFIG_I: Configured from console by console 7500-1.5# show debug Generic ATM: ATM packets debugging is on ATM errors debugging is on 7500-1.5# 1w3d: ATM4/0/0.50(I): VCD:0xD VPI:0x5 VCI:0x32 Type:0x2 NLPID:0x03CC Length:0x6A 1w3d: 4500 0064 0054 0000 FE01 942E 0A0A 0A01 0A0A 0A02 0800 F9A6 1C05 2248 0000 1w3d: 0000 B1F5 9460 ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: 1w3d: ATM4/0/0.50(O): VCD:0xD VPI:0x5 VCI:0x32 DM:0x0 NLPID:0x03CC Length:0x6A 1w3d: 4500 0064 0054 0000 FF01 932E 0A0A 0A02 0A0A 0A01 0000 01A7 1C05 2248 0000 1w3d: 0000 B1F5 9460 ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD 1w3d: ABCD ABCD ABCD ABCD ABCD